ここまで幸せでよろしいのでしょうか?




それはとてもよく似合っていた

そして、誓った・・・二人で幸せになろう・・・




「蓮二、すまないが今日は寄るところがある」

部活が終わって、部室で着替え中に、真田は隣にいる柳にそう告げた。

「・・・俺もよければつきあうぞ?」

「いや、それには及ばん」


真田は柳の予想していた答えにどうしようかと悩んだ末、柳の隣に立つ後輩に視線を落とした。

「たまには赤也と帰るのもいいだろう?」

「え?本当にいいっスかっ!」


突然の言葉に赤也は喜んだが、柳は少し納得がいかない表情をしたが、

まぁ、いいだろう。といって笑みをこぼした。

「すまないな、蓮二」

「いや、たまにはこういうのもいいだろう」


柳はそういうと赤也を連れ立って部室を出て行った。

真田も二人の後ろ姿を見送った後、部室をでた。


学校近くの駅。その駅から離れた一角。真田は店の前にいた。

扉を開けると、中から元気のいい店員の声がひびき、一人の女性店員がやってきた。

「いらっしゃいませ」

「真田ですが、以前頼んだ物ができたとお電話いだたきまして・・・」

制服姿で長身、テニスバックを背負う学生。

清潔感が漂う店にはかなり浮いてしまう存在だった。

「少々おまちください」


女性店員はびっくりしながらも真田に椅子を勧めると店の奥へと消えていった。

その店はアクセサリーショップ。

シルバーやゴールドのリング、チェーンなど幅広く取り揃えている。

学生には高いが、アクセサリーとしては安い価格だった。


それでも商品はちゃんとしていて、幅広い年齢層から支持を受けているらしい。

この店を見つけたのは偶然だった。

ショーウィンドウに飾ってあったブレスレットが思いのほか、気に入ってしまったのだ。

「お待たせいたしました」


店の主任らしき男性が手に小箱と書類を持ってきて、真田の向かいの席に座る。

「真田さまですね。これがご注文の品になります」


しばらく、お手入れの仕方などを聞かされたあと、真田は店をでた。

『・・・喜んでくれるといいが・・・』


真田は手に持った小さな手提げ袋に目をやると笑みをこぼした。



その頃、赤也と柳はファーストフードの店にいた。

帰りに赤也が突然お腹が空いたと言ったからだ。


当の本人はバーガーを夢中でほおばっている。すでに二つ目。

柳はそれを保護者のように見つめながら、アイスティーを飲む。

「柳先輩、本当に食べないんですか?」

「あぁ、俺のことは気にしなくていいから食べろ。それに油物と冷たいものを同時にとるとお腹を壊すというぞ・・・」

「え、そうなんっスか・・・?」


赤也はさっきからすごい勢いでドリンクとバーガーとポテトを同時にほおばり、一瞬、その手が止まった。

しばらくして。

「そういえば、副部長の用事って何だったんですかね」

「!」


突然、窓の景色を見ていた柳の顔が変化した。

驚きの後に食らい影。赤也はその変化を逃さず、その視線の先をのぞいた。

しかし、そこにはもう、彼が驚くような存在はなかった。

「先輩・・・どうかしたんスか?」

「いや、何でも・・・」


赤也の声に我に返る柳だったが、それからはうわの空だった。




柳は家に帰っても正直落ち着きがなかった。

あの時に見たあの光景。確かに真田だった。しかし、隣には女子生徒がいた。


『蓮二、今日は寄るところがある』


真田の言葉がよぎる。

「そういう・・・こと・・・なのか?」


楽しそうに歩いていた二人。

そういえば、最近の真田の行動はおかしい。そんな気がしてくる。

真田に限ってそんなことはないと信じていても自然と涙がこぼれてくる。

「・・・弦一郎・・・」


そのとき、携帯がなった。

「もしもし」

「蓮二か、明日の日曜会えないか?」


真田からだった。柳は涙をぬぐい、悟られないように言葉を吐く。

「あぁ、それはかまわないが。」

「どうかしたのか、何かあったのか?」


真田は電話越しの柳の声がいつもと違うことにきがついた。

「なんでもない、弦一郎。明日、またな」


柳は一方的に電話を切った。そして電源も落とした。

きっと、彼のことだから、何度もかけてくるだろう。その光景が目に浮かぶ。

複雑な想いを抱いたまま、柳はスッと意識の底へ落ちていった。


しばらくして、母の声で目をさました。

「やっと起きたわね。真田君がいらしたわよ」


柳は身支度を整えると、部屋に真田を通した。

「すまんな、押しかけて」

「どうしたんだ、弦一郎?」


柳はふと、時計に目を落とす。五時だった。

二人は向かい合うように座る。明らかに元気のない柳。

「赤也から電話があってな、お前の様子が変だと聞いた」

「そうか・・・」


真田はうつむいて何も言わない柳を見つめていた。

「本当は・・・明日渡したかったんだが・・・」


真田はカバンから小さな包みをとりだした。

柳はそれを不思議な表情で見ていた。

が、真田の手首の銀のブレスレットに目が入った。

「蓮二・・・受け取ってくれ」


柳はそれを受け取り、静かに封をひらいた。

小箱を開けると、そこには金のブレスレットが飾ってあった。

細いチェーンが三重にも折り重なったもので、真田がつけているものと色違いだった。

「弦一郎、これは?」

「つけてみてくれないか。お前に似合うと思う」


案の定、似合っていた。それをみた真田の表情が歪んだ。

「蓮二、二人で幸せになろう」


真田はそっと、柳を抱きしめた。暖かい体温を感じ、柳は自然と涙がこぼれた。

「・・・蓮二、俺はお前じゃないと・・・ダメなんだ」


柳はその言葉に顔をあげた。

「・・・俺で・・・いいのか?」

「当たり前だ、お前以外の代わりなんていらない」


真田は優しく、くちづけをした。


幸せになろう、二人で――


後日、真田の口から一緒に歩いていた女子生徒は従姉妹だったということを聞いた。





おわり